戻ってみると、ぐったりしていた男は、完全に気を失っていた。
「死んでしもうたのか?」
新平が、なにやら憤慨していた。
「こいつ、追剥ぎや」
三太が居なくなると、男はいきなり新平を羽交い絞めにして、身包みを剥いで目ぼしいものを探したらしい。何も持っていないとわかると、新平を縛って岩の陰に隠し、三太の帰りを待って襲う積りらしかった。新平を縛ろうとしたところで、男は気を失った
call 輪。
「新さんがやっつけてくれた」
「なんや、こいつ人に水を汲ませに行かせやがって」
三太は、倒れている男に、小便を引っ掛けて、その場を立ち去った。 近江は、商人の町である。豪商と言われる大店の屋敷が競い合うように立ち並ぶ。町全体が活気に満ちて、行き交う人々の愛想笑いが、自然に町に溶けている。
「これ安吉、店の前に子供が倒れているじゃないか、お商売の妨げになります、退かしなさい」
「あっ旦那様、これは気付きませず申し訳ありません」
子供は、腹を空かせて目をまわしているようである。安吉は、ここの手代であろうか、子供の様子を気にするでもなく、事も無げに子供を抱えると、近くの空き地に運び、捨て猫のように置き去りにした。
「へい、稲荷神社の空き地に捨てて参りました」
「そうか、ご苦労でしたな、ここへ来てお水でも飲みなさい」
三太は、近江の草津を出て、石部の宿場に向っていた。赤い鳥居が立っていたので、一礼して拍手(かしわで)をひとつ打ったところで、空き地に子供が倒れているのに気が付いた。駆け寄ってみると、死んではいなかった。
「どうしたんや、気分が悪いのか?」
子供は三太に気付き、空ろな目で?腹が減った」と、訴えた。
「待ちいや、いまどこかで食い物を貰ってきてやる。それまで動かんとじっとしとりや」
三太は駆け出していった。立派な屋敷の表戸が開いていたのして頼み込んだ。
「すんまへん、何か食べるものを貰えませんか?」
手代が顔を出した。
「うちは、食べ物屋ではない、他をあたってください」
「他をあたれと言われても、近くに食べ物の店はありまへんやないか」
「ここから十町ほど行ったところに、お餅屋があります」
「そこの空き地で、子供が腹を空かせて目をまわしているのです」
「ああ、あの子ですか」
「知っていますのか?」
「はい、店の前で倒れていたので、邪魔にならないところへ私が運びました」
「助けないでか?」
「そんな何処の子かも知れない者を、何故助けなければならないのですか」
「同じ人間やないか」
「金にもならないことは、近江商人はしません」
三太は、呆れかえってしまった。近江商人は、客には丁重に接するのに、利益に繋がらない者には薄情極まりない。三太の近江商人に対する悪い印象が、定着してしまいそうであった
薑黃素膠囊。
「ほんなら、お金を払いましょう」
奥から、旦那らしい男が暖簾を分けて出てきた。
「いらっしゃいませ、それでは梅干の入ったおにぎりでも作らせましょう」
「へえ、四個お願いします」